校長室より

「失敗したっていい。大切なのはその次だ」

凛とした姿の新入生。皆さんの入学を頼もしく感じます。

大高での3年間は、将来に向けた自分探しのとき。

何かに挑戦し、打ち込み、やり抜いてほしいと願っています。

失敗したっていい。「挫折は挑戦の証」ですよね。

 

 式辞

 桜が咲き、若い命が躍動する春がめぐってまいりました。この春のよき日に、本校PTA会長 木太拓志様、後援会会長 玉川信様、同総会会長 笠原清和様、並びに新入生の保護者の皆様方のご臨席を賜り、かくも盛大に令和6年度埼玉県立大宮高等学校入学式を挙行できますことは、本校関係者一同大きな慶びでございます。ご臨席をいただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

 ただ今、入学を許可いたしました362名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。在校生、教職員を代表して、皆さんの入学を心から歓迎いたします。

 また、保護者の皆様方におかれましても、お子様のご入学、誠におめでとうございます。心よりお喜びを申し上げます。

 本校は、創立98年目を迎えた、長い歴史と伝統を誇る高校です。皆さんは、その本校入学に向け、ひとつの大きな目標を達成するための努力を積み重ねてきました。そして、今日、見事にその目標を達成し、この場に立っています。皆さんには、決して容易くはない大きなことを成し遂げたという自信を手にするとともに、将来への限りない可能性を感じて欲しいと思います。

 皆さんがいるこの場はゴールではなく、将来に向けたスタート地点です。ゴールはもっと先にあります。皆さんはこれから次の目標に向かってさらに前進していきます。今日から始まる高校生活は、皆さんが将来に向けた「志」を持つための様々な経験を積む場です。これまでの経験に加え、「大高生」としての経験一つ一つを大切にし、何かを感じ、何かを考え、自分のなすべきこと、自分が目指す道を見出してほしいと願っています。

 皆さんは、バッグやアパレルの開発・生産・販売をする「マザーハウス」という会社を経営する山口絵理子さんという方を知っているでしょうか。

 この方はさいたま市立宮原中学校出身、高校時代は同じ市内の大宮工業高校で学んだ方です。

 山口さんは、小学校時代、人間関係などでつらい経験をしたそうです。中学時代、柔道を始めましたが、少しグレていた時期もあったとのことです。しかし、中学卒業を機に、もう一度自分をリセットして本来の自分になりたいと、柔道の強豪校である大宮工業高校に進学し、男子柔道部に唯一の女子部員として入部しました。

 当時の顧問に話を聞くと、中学校の大会を観に行った際に、大宮工業の柔道部に入りたいと本人から申し出があったのですが、女子部員がいないことから一度は断ったそうです。しかし、山口さんの強い意志と熱意を受け、初めての女子柔道部員が誕生することとなります。

 山口さんは本当に負けず嫌いで、1年目は「悔しい、悔しい」と毎日のように泣いていたそうですが、人一倍練習に打ち込み、全日本ジュニアオリンピックで7位になるというところまで上り詰めました。

 柔道をやりきった山口さんは、そこで目標を切り替え、慶応義塾大学に進学。そこで途上国開発のテーマに出会います。大学4年生の時に、アメリカの米州開発銀行にインターンシップ留学し、貧困問題を学び、バングラデシュに興味を持った山口さんは、現実の問題を解決するためには現地を知ることが重要であると考え、実際にバングラデシュを訪れます。

 バングラデシュの貧困の現状やはびこる汚職などを目の当たりにした山口さんは、現地の大学院で学びます。そして、「この地に希望の光を灯したい」との思いから、バングラデシュの原料と現地の人の力で作り上げた製品を世界で販売して社会を変えようと決意し、「発展途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げた会社を設立したのです。

 はじめは、現地の人々の理解をえられず、多くの壁にぶつかったといいます、しかし、決して諦めることなく志を貫き、事業を継続してきた結果、今では、日本国内に42店舗、海外に7店舗を構える企業へと成長し、バングラデシュをはじめ、ネパールやスリランカなどの途上国に製造拠点を展開し、現地の人々の雇用を生み出し、生活を支えています。

 一人の女性の志が、社会を変え、多くの人々を笑顔にしているのです。

 先ほど私は、皆さんにとって、今日が将来に向けたスタートであるということを申し上げました。この「将来」について、皆さんに求めたいことがあります。

 それは、「自分の将来」を「社会の未来」に関連付けて欲しいということです。本校は目指す学校像に「高い志と強い使命感を持った未来を創るトップリーダーを育てる学校」を掲げています。つまり、私たちは、皆さんの進路実現の先に、日本そして世界の未来を創るという壮大なビジョンを掲げているのです。まさにこれが本校が目指すゴールです。

 私たち教職員は、日々の授業はもちろん、学校行事や部活動を含めたあらゆる教育活動が、社会の未来に繋がっているという思いで、皆さんとともに前進していきます。

 皆さん、ぜひ大宮高校での3年間で、何かに挑戦し、打ち込み、やり抜いてほしいと思います。その情熱とエネルギーが、皆さんの将来、社会の未来を創り上げていくと信じています。

 最後になりましたが、保護者の皆様におかれましては、重ねて入学のお喜びを申し上げます。この15年間、様々なご苦労があったかと存じます。心から敬意を表したいと存じます。 

 本日、大切なお子様方を確かにお預かりいたしました。責任をもって、お子様方の力をしっかりと伸ばしてまいります。

 入学にあたり、ひとつ保護者の皆様にお願いがございます。それは、ぜひ、お子様に、転んだ時の立ち上がり方を学ばせてあげて欲しいということです。私も一人の親として、つい、転ばないコツ、転ばない道の選び方を伝えたくなります。確かに転ばないことも大切ですが、それ以上に大切なのは転んだ時の立ち上がり方です。

 私たちは転ぶ経験を通して立ち上がり方を学びます。生徒にとっては成功と同様に失敗も貴重な経験であり、大きな財産です。高校時代は、生徒一人一人が、自分の人生を自分の力でつかみとっていく大切な時期でもあります。お子様の成長を後ろから暖かく見守っていただき、力強く支えていただければと存じます。

 私たち教職員は、大宮高校の教育に誇りをもって全力で取り組んでおります。ぜひ、家庭と学校との風通しを良くしながら、お子様の成長に向け、ともに取り組んでいきたいと思いますので、何卒、御支援御協力をよろしくお願いいたします。

 それでは、3年後の卒業式の際、ここにいる新入生が心身ともに大きく成長し、すべての生徒・保護者の皆様が「大宮高校で本当によかった」と思えることを心から願い、式辞といたします。                 

 

 令和6年4月8日     

 埼玉県立大宮高等学校 校長  松中 直司