大高日誌

【3学年】演劇を使ったコミュニケーションワークショップ

3学年・総合的な探究の時間

 

6月、9月に3年生全員が演劇の手法を取り入れたワークショップを体験しました。

これは文化庁「文化芸術による子供育成推進事業・コミュニケーション能力向上事業」の助成によるもので、

NPO法人PAVLICのファシリテーター8名に来校していただき実施しました。

6月のワークショップでは決められた人物を演じることで、自分の主張を他者とぶつけ合う体験をしました。

9月のワークショップでは状況や人物関係を自由に設定し、他者の「心を動かす」ことに挑戦しました。

 

今年度の総合的な探究の時間では「論理的思考を究める」ことを目標に、主に小論文課題に取り組んでいますが、

「他者と協働する力」「表現する力」「新たな価値を創造する力」も育成していくために、

このようなワークショップを体験することで、個々のコミュニケーション能力向上を目指しました。

 

 

【生徒感想より】

●初対面の人と話すのが元々苦手で、自分の意見を周りに伝えるのが怖い自分が足を引っ張ってしまった一方で、周りの意見をまとめたり全員の意見を聞き入れられるところは、自分のいいところなのかなと感じた。演劇はとても新鮮な体験で良い刺激になり、視界が広がった。いつも私たちは物語や映像などに心を動かされる側だったが、動かす側を演劇を通して体験できたのがとても新鮮だった。普段の学校生活ではできない体験で、改めて人それぞれの価値観の違いについて考えさせられた。

 

●私の組んだメンバーは、初対面かつ私以外は皆男子という組み合わせで、最初は不安でしたが、会話をするうちに打ち解けていって、一つのモノを作ることがとても楽しくなっていました。大学生になり就活をする上で初対面の人と性別問わず議論する力はとても大事になってくると思うので、今回のワークショップを通して演劇だけでなく、そういう経験もできたことが嬉しかったです。また、お題は同じなのに各グループで作る劇が全く違うところもとても面白かったです。他のクラスのグループがどのような劇をしたのか共有したいです!

 

● 自分が思っていた以上に、演劇というのは楽しいものであると実感するとともに、自分が思っていたより遥かに対話というのは難しいものだと思いました。科学的事象や数学、また受験やテストで出てくる問題と異なり、現実の人間社会において「正しさ」というのはその所属するコミュニティや個人の考えによって規定されるもので、生きていくうえで価値観の異なる存在とどう向き合っていくかの重要性を知りました。
 確かに、対処し難いものから逃げる、具体的には関わりたくない人との関わりを避けたり、相手を無視したりすれば、不快な気分からは短期的に逃げられるかもしれませんし、実際心が耐えきれなくなりそうならそれも立派な手段だと思います。しかし、世の中嫌なことと向き合わざるを得ない場面というのはおそらくたくさんあるのでしょう。工夫に工夫を重ねて価値観の異なる相手の心を動かすことに成功することもあれば、それと同じかそれより多く失敗することも有り得て、その度に少しどんよりした感覚に包まれてしまうかもしれません。

 そこで私が考えたことが、一回目の演劇のワークショップでした。前回は自己主張の大切さを学びました。今回のワークショップでも少しそれを意識していた部分があったのかもしれないと思います。私が取り組んだ役で、私は椅子に座っている相手の人に、その状況の役の主観から率直な気持ちを伝えようとしていました。一回目のワークショップではそれは最も望ましい動きだったのかもしれませんが、今回の相手の心を動かすという観点に置いては、必ずしも最適解ではないのではないでしょうか。真正面から感情を伝えようとして、それを受け流されたからモヤモヤという感覚が生まれてしまうのではないでしょうか。
 思うに、自己主張に基づく発言や行動と、相手の心を動かしたいという思いに基づく発言や行動は全くの別物なのではないでしょうか。自己主張によるそれらは、内輪の居心地の良い空間や、自身の権利や思いを相手に伝えるべき状況で、心の我慢が過剰にならないようにするためにすること。相手の心を動かすためのそれらは、自身の感情を抑えてでも、理解が困難な相手の視点に立って、相手の視点にとって如何に自分がしてほしいことを行おうとしてくれるかを参照する、所謂「説得」なのではないでしょうか。自己主張は相手の心理や背景を考慮しませんし、説得は自身の利益・目標のため自分の心理や背景を考慮しません。そこを見誤ってしまったから、今回は私たちのグループは相手を説得することができず、最終的に自己主張で終わってしまい、本を読む相手を立たせられなかったのではないでしょうか。
 これからの人生、自己主張も説得も、日常的かどうかは分かりませんがする時が多く来ると思います。この文章もきっと自分の自己主張の一種なのでしょう。状況に応じて俯瞰的に周りを理解し、自分の発言をコントロールできるような、そんなものの見方というのはやはり大切なようです。今回のワークショップを終えて、私は多角的な視点という言葉がより一層実感を伴うものになった気がします。